「うたを うたうとき」まど・みちお

うたを うたう とき
わたしは からだを ぬぎすてます

からだを ぬぎすてて
こころ ひとつに なります

こころ ひとつに なって
かるがる とんでいくのです

うたが いきたい ところへ
うたよりも はやく

そして
あとから たどりつく うたを
やさしく むかえてあげるのです




「少女と雨」中原中也

少女がいま校庭の隅に佇(たたず)んだのは
其処(そこ)は花畑があって菖蒲(しょうぶ)の花が咲いてるからです

菖蒲の花は雨に打たれて
音楽室から来るオルガンの 音を聞いてはいませんでした

しとしとと雨はあとからあとから降って
花も葉も畑の土ももう諦めきっています

その有様をジッと見てると
なんとも不思議な気がして来ます

山も校舎も空の下(もと)に
やがてしずかな回転をはじめ

花畑を除く一切のものは
みんなとっくに終ってしまった 夢のような気がしてきます